溶接金属の凝固と金型鋳造時の凝固とを比較すると,次のような違いが挙げられる。
溶
接金属では,①溶融部が小さくて温度勾配や凝固速度がきわめて大きい,②熱源と被加熱部が共存して溶融と凝固が連続して起こる,③抵抗溶接などを除いて
は,熱源が移動するために溶接ビードの各位置によって最大温度勾配の方向が異なり結晶の成長方向が変わる,④熱対流,電磁力や表面張力などによって溶融金
属の流動が起こりやすい,等であるが,最も特徴的な違いは,⑤溶接金属での凝固は熱影響部の結晶粒から結晶方位を同じにしてエピタキシャルに進行するが,
金型鋳造では鋳壁で凝固の核が発生して成長することである。
図
1に溶接金属部の凝固部の模式図を示す。凝固は熱影響部から起こり,中央部へと進行する。(a)のように溶接速度が小さい場合には,溶融池の最大温度勾配
の変化とともに中央部に向かって成長方向が変化している(微細凝固組織は省略)。(b)のように,溶接速度が大きくなると,凝固形態も明らかに変化して組
成的過冷度の増加とともに,熱影響部から平滑界面,セル界面,セル樹枝または柱状樹枝界面成長となり,中央部で等軸樹枝状晶領域が形成される。
図
2は,合金の金型鋳造時に見られる典型的な凝固組織である。金型壁には,急冷された溶湯金属から多くの核生成が生じて非常に小さな等軸晶が形成され,いわ
ゆるチル層が形成される。チル層内のいくつかの等軸晶は熱流方向と反対の方向を向いた優先成長方位を有しており,これらが優先的に成長して柱状晶が形成さ
れる。鋳造組織中央部には,等軸晶領域が現れ,溶質の量が増すとその領域が拡がる。この等軸晶の生成は,溶質量だけでなく溶質の種類,凝固速度や凝固時の
溶湯の機械的な攪拌振動等によっても影響され,極端な場合には,鋳造組織全体が等軸晶になることもある。